連載小説:第2話 運命の出会い【ダックスフンド探偵モカとタカシの事件簿 ~消えたペットたち~ 】
ー前回までのあらすじー
メルボルンでまた一匹の犬がさらわれた。犯人はどこか狂気じみた目的をもっているようだ。
一方そのころ、メルボルンのまた別の場所でタカシとモカが運命の出会いを果たす。この奇妙な事件に関わることになるなんて彼らはまだしらない。
ー本編ー
運命の出会い
メルボルンの街が夕暮れに染まり始めた頃、タカシは取材を終え、ほっと一息ついた。彼はフリーランスのジャーナリストとして、日本からこの街に移り住んで数年が経つ。
新しい環境での生活は決して楽ではなかったが、メルボルンの豊かな文化と独自の雰囲気が彼を引き寄せ、この街を第二の故郷と感じるようになっていた。
その日、タカシは地元の芸術家に関する特集記事の取材をしていた。インタビューが無事に終わったものの、頭の中で記事の構成や表現について考えがまとまらず、どこか落ち着かなかった。
そんなとき、ふと目に留まったのが通り沿いにある古本屋だった。「少しリフレッシュしよう…」タカシはそう思い、以前から気になっていた「セントキルダ・ブックショップ(Readings St Kilda)」へ立ち寄よることに。
この本屋は昔ながらの木製の本棚が所狭しと並び、様々なジャンルの本が積み重ねられている。タカシはこのような場所が好きだ。彼は幼い頃から読書が好きで、本を通じて新しい世界に触れることを何よりの楽しみとしていた。
本屋に入ると、タカシは自然と自分が興味を持つジャンルの棚に引き寄せられた。彼は常に新しい視点やアイデアを求めており、インスピレーションを得るために時折こうして本屋に立ち寄っていた。
特に、ミステリーやノンフィクションの書籍に目を通すことが多かった。これらのジャンルは、彼のジャーナリストとしての仕事にも直結しており、取材や記事執筆の際に役立つことが多いためだ。
その日も、何か新しい発見ができるのではないかという期待感を抱きながら、タカシは本棚をゆっくりと眺めていると、ふと目に留まったのは、表紙に描かれた印象的なイラストが特徴の一冊の本だった。
タカシはその本を手に取り、軽くページをめくり本に没頭し始めたその瞬間、足元からかすかな気配を感じた。彼が視線を落とすと、そこにはミニチュアダックスフンドがじっとタカシを見上げている。
茶色のつぶらな瞳がタカシの目を捉え、まるで何かを訴えかけているかのようだった。驚いたタカシが店主に話を聞くと、その犬は「モカ」という名前で、書店の常連客だったらしい。
モカはまるで何かを調査するかのように、いつもお店の中をくまなく探りながら、不思議な動きを見せていたという。「この子は、ただの犬じゃない気がするんだよ」と店主が笑いながら話すと、モカはまるでその言葉を理解したかのように、タカシの足元にすり寄ってきた。
タカシはその姿に微笑み、「君はどうしてここにいるんだ?」とモカに話しかけた。すると、モカはしっぽを振りながら、タカシの手に顔を寄せた。まるで「一緒に行きたい」と言っているかのように。
しかし、タカシは少し迷った。彼の生活は忙しく、ペットを飼う余裕があるかどうか自信がなかったからだ。「本当に、この子を連れて帰るべきなんだろうか?」と心の中で自問した。モカはその間もタカシの足元に寄り添い、離れようとしなかった。
店主もその様子を見て、「モカは人懐っこいけれど、こんなに誰かに懐くのは珍しいね。君のことが気に入ったみたいだよ」と驚いた様子で言った。タカシは深く考えた末に、ようやく決心した。「じゃあ、モカ。君が良ければ、僕と一緒に来るか?」
モカはその言葉を理解したかのように、再びしっぽを振ってタカシにすり寄り、まるで「もちろん!」と答えるかのようにタカシの足元に寄り添った。タカシはその姿に何か運命的なものを感じ、モカを自宅に連れて帰ることにした。
タカシは少し不安を感じながらも、モカの存在が彼の生活に新たな意味をもたらすことを期待し始めていた。モカはタカシのそばを離れない存在となり、どこかミステリアスで、何かを見透かすようなその瞳が、タカシの心にいつも不思議な安堵感をもたらしていた。
つづく