連載小説:第5話 容疑者の浮上【ダックスフンド探偵モカとタカシの事件簿 ~消えたペットたち~ 】
ー前回までのあらすじー
メルボルンで次々と発生するペット失踪事件を調査するフリーランスのジャーナリスト、タカシと彼の相棒であるミニチュアダックスフンドのモカ。
市場で不穏な空気を感じ取った二人は、地元警察官のライアンと協力し、事件の真相を追い求めることに。
ー本編ー
タカシはこれまでの調査やライアン巡査からの情報をもとに、失踪事件に関連しそうな人物を探し始めた。ペットの失踪が特定のエリアで集中していることから、その周辺に住む人物や頻繁に出入りしている人物に注目する必要があると考えた。
モカはタカシの近くを歩きながら、あちこちを警戒するように匂いを嗅ぎ回っている。タカシはモカの動きに目を配りながら、情報を整理し、調査を進めていった。
まず、タカシは市場周辺で目撃された不審な行動についての証言を集め、その情報を整理した。複数の飼い主や目撃者が、市場近くの家や露天商、動物保護施設に関与する人物に関連した目撃情報を提供してくれた。
特に、飼い主たちが共通して挙げた3つの場所をあたることに。
-
マーサ・ウィルソン
マーサは南メルボルン市場の近くに住む高齢の女性で、愛犬を失っていた。その悲しみもあってか、長年地域に住んでいるが、最近は周囲の住民との接触を避けているようだ。彼女の庭には多くの犬の骨やおもちゃがあり、近所の犬たちが彼女の家の前で吠えるという証言があった。
モカはマーサの家の近くに行くと、特にその庭に強い興味を示し、執拗に匂いを嗅ぎ回った。
「マーサがもし動物をさらっているとしたら、何が動機なんだろう?愛犬との別れを経験したことで孤独を感じ、他の犬たちにその思いを投影しているのかもしれない。しかし、近所の犬たちが彼女の家で吠えていることを考えると、何か隠している可能性もある」
-
ジョン・ミッチェル
ジョンは、南メルボルン市場でペットフードを販売する露天商で、犬の行動に詳しい。彼は市場内で目撃された不審な動きをしていたとされ、いくつかのペット失踪事件が起きた時期に市場で働いていた。
モカはジョンの露天を訪れたとき、露天全体を嗅ぎ回り、ジョンにも興味を示していた。
「ジョンが犯人だとしたらら、それは商売に関係しているのかもしれない。特別なフードを使って犬たちを引き寄せ、その後どうしているのか…。彼の行動に疑念を抱かざるを得ない」
-
リディア・グレイ
リディアは、近くの動物保護施設のボランティアで、失踪したペットの何匹かは一度彼女の施設に収容されたことがある。しかし、彼女の説明には矛盾があり、施設でのペット管理に問題があると疑われている。
モカはリディアの施設の近くで、何かに強く興味を示し、タカシの注意を引いた。「リディアが動物を連れ去っているとしたら、保護活動の一環としての過剰な行動か、それとも他に何か隠された意図があるのだろうか…。彼女の行動にはどうも不自然さを感じる」
タカシはこれらの容疑者を1人ずつ調査し、それぞれのアリバイや動機を探っていくことにした。
マーサ・ウィルソンとの対話
タカシはまずマーサ・ウィルソンの家を訪れた。彼女は庭に座り込み、犬のおもちゃや骨を並べながら何かを考え込んでいた。タカシが「マーサさん、少しお話ししてもよろしいですか?」と声をかけると、彼女は驚いた様子で顔を上げた。
「何かご用かしら?」マーサはやや警戒しながらも、タカシを招き入れた。
「最近、こちらの地域でペットが失踪する事件が相次いでいると聞きまして…」タカシが話を切り出すと、マーサはため息をついて「私もそのことは聞いているわ。でも、私はただ亡くなった愛犬の思い出を大切にしているだけなの。これらの骨やおもちゃは、私の犬が遊んでいたものなのよ」と説明した。
モカはその間、庭にあるおもちゃや骨を嗅ぎ回っていたが、特に不審な点は見つからなかった。タカシはその情報をメモに記録し、マーサに感謝の意を示して家を後にした。
ジョン・ミッチェルとの対話
次にタカシはジョン・ミッチェルを訪ねた。彼の露天では、ペットフードが所狭しと並んでおり、多くの犬がその香りに引き寄せられていた。モカもその匂いに興味津々で、フードの袋に鼻を押し付けた。
「ジョンさん、少しお話しをお伺いしてもよろしいですか?」タカシが尋ねると、ジョンは愛想よく答えた。「もちろんさ、何でも聞いてくれ。」
「最近、この市場周辺でペットが失踪する事件が起きているんですが、何か心当たりはありますか?」
ジョンは驚いた表情を浮かべ、「そんなことが起きているなんて知らなかったよ。俺はただペットフードを売っているだけさ。うちのフードが特別おいしいから、犬たちが集まってくるのは確かだけど、そんなことは一度もなかったよ」と答えた。
モカはジョンの露天を隅々まで嗅ぎ回ったが、特に不審なものは見つけられなかった。タカシはその情報をメモに記録し、ジョンに感謝の意を示してその場を後にした。
リディア・グレイとの対話
最後にタカシはリディア・グレイを訪ね、動物保護施設を訪れた。リディアは忙しそうに施設内を歩き回っていたが、タカシが話しかけると立ち止まった。
「リディアさん、少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「何でしょうか?」リディアは警戒心を露わにした。
「最近、こちらの施設に収容されたペットの中に、失踪事件に関わるものがあったのではないかと聞きましたが、そのことについてお聞かせ願えますか?」
リディアは顔を曇らせ、「そうですね…いくつかのペットは確かにここに来ましたが、すぐに引き取られていきました。私はただ、彼らを保護しただけです。」と答えた。
モカは施設内を嗅ぎ回っていたが、特にリディアが隠しているような証拠は見つからなかった。タカシはその情報をメモに記録し、リディアに感謝の意を示して施設を後にした。
つづく