連載小説:第4話 周辺調査【ダックスフンド探偵モカとタカシの事件簿 ~消えたペットたち~ 】
ー前回までのあらすじー
タカシはメルボルンに移住して以来、毎週末モカと共に朝の散歩を楽しむようになっていた。ある日、天気の良い朝、南メルボルン市場へと足を伸ばすと、そこでペットが次々と失踪する不穏な事件に遭遇する。
市場でペットを失った飼い主たちと話す中で、タカシとモカはこの出来事が単なる偶然ではなく、何か事件性を帯びていることを感じ始めていた。
ー本編ー
タカシとモカは市場での散策を終えた後、南メルボルン市場の周辺をさらに調査することにした。市場は賑やかで、人々が忙しく行き交う中、タカシは何か手がかりが見つかるかもしれないと考えたのだ。
ペットが失踪した飼い主たちの焦りと不安を目の当たりにしたタカシは、この事件が偶然ではなく、何かしらの原因があるに違いないと直感した。
モカは市場の外れにある静かな通りを歩きながら、注意深く匂いを嗅ぎ回っていた。タカシはモカの動きに目を配りながら、周囲の様子を観察した。
普段は賑やかな市場の一部でも、少し離れると急に人通りが少なくなるエリアがある。そのような場所に何か異変が潜んでいるのではないだろうか。
通り沿いには古い商店や、使われていないように見える小さな建物が点在している。タカシはモカが特に興味を示す場所があるかどうかを注意深く見守っていた。
モカは時折立ち止まり、匂いを嗅ぎ取っていたが、特に強い反応を示すことはなかった。「何か見落としているんだろうか…」タカシは歩きながら思案した。この市場周辺には、多くの人が集まる一方で、隠された場所も少なくない。
ペットが姿を消すような出来事が起きるには、目立たない場所が関係しているのかもしれない。タカシとモカは、さらに調査を続け、いくつかの店や建物の周辺を歩き回った。
モカは落ち着いた様子で、まるで何かを探しているかのように鼻を地面に近づけながら歩いていた。タカシはモカが嗅ぎ回る行動に何か意味があるのではないかと考えたが、「このままでは手がかりが足りないな…」と感じていた。
ペットの失踪が偶然の産物ではなく、何者かの意図が働いているに違いない。しかしそれを裏付ける確固たる証拠がない。タカシは、地元の警察官であるライアン・オコナー巡査に相談することを決めた。
ライアンはこの地域に詳しく、また事件に関する情報を持っているかもしれない。「ライアンなら、この不審な出来事について何か知っているかもしれない…」タカシはそう考え、モカと共にライアンに連絡を取るため、市場を後にした。
地元の警察官である友人のライアン・オコナーは、メルボルンに移り住んだタカシと仕事を通じて親しくなった。タカシが取材で困った時にはいつも情報を提供してくれる頼れる存在だ。
二人は南メルボルン市場に近い「マーケット・レーン・コーヒー(Market Lane Coffee)」という人気のカフェで会うことにした。
カフェに入ると、タカシとライアンは木製のカウンターで注文をした。カフェの中には、新鮮なコーヒー豆の香りが漂い、バリスタたちが手際よくエスプレッソを抽出していた。
カウンターの上には、地元のパン屋から届いた焼きたてのクロワッサンやペストリーが並び、どれも美味しそうに見えた。「何にする?」ライアンがタカシに尋ねる。
「フラットホワイトかな。このカフェのは特にクリーミーで美味しいって聞いたから。」タカシはメニューを見ながら答えた。
「いい選択だ。」ライアンは笑顔でうなずきながら、「俺はロングブラックにするよ。シンプルだけど、このカフェのコーヒーは豆の風味がしっかり楽しめるんだ。」
注文が終わると、二人は店内の落ち着いた席に腰を下ろし、窓から見える市場の賑わいを眺めながら、コーヒーが運ばれてくるのを待った。南メルボルン市場周辺の賑やかな雰囲気が、カフェの中でも感じられた。
モカはタカシの足元で落ち着いて座り、時折店内の様子を伺っていた。カフェの床に置かれた小さな水の入ったボウルに鼻を近づけ、喉を潤す。タカシはそんなモカの姿を微笑ましく見つめた。
「最近、このエリアでペットの失踪事件が続いてるんだ。いくつかのケースは、同じ時間帯に同じ場所で起きている。でも、手がかりが少なくてね…」とフラットホワイトを一口飲みながら苦笑いを浮かべた。
「何か共通点はないか?」タカシが尋ねると、ライアンはロングブラックを一口飲み、しばらく考え込んだ。「そうだな、どの事件も夕方から夜にかけて起きている。
そして、飼い主たちは皆、目を離したのがほんの一瞬だったと言っている。それに、失踪地点付近で不審な人物が目撃されているという証言もあるんだが、まだ特定には至っていない。」
モカはその話を聞きながら、じっとライアンを見つめていた。彼の鋭い目が何かを察知しているかのようだった。「それは興味深いな。」タカシはメモを取りながら続けた。「その不審者について、何か具体的な特徴は?」
「目撃情報がばらばらでね、共通する特徴はほとんどないんだ。中には、フードを深くかぶっていたり、顔を隠していたりしたという証言もあった。けど、まだ決定的な手がかりにはならない。」ライアン巡査は肩をすくめた。
「なるほど…。それなら、俺も少し調べてみるよ。何か分かったら、すぐに連絡する。」タカシはそう言い残すと、モカも立ち上がり、タカシの足元に寄り添いながら、カフェを後にした。
つづく