連載小説:第3話 不審な兆候【ダックスフンド探偵モカとタカシの事件簿 ~消えたペットたち~ 】
ー前回までのあらすじー
メルボルンの老舗書店「セントキルダ・ブックショップ(Readings St Kilda)」の常連ミニチュアダックスフンドのモカとであったタカシ。
探偵気質のモカと、好奇心旺盛なジャーナリストのタカシは直感的に意気投合?これから難事件に挑んでいく。
ー本編ー
タカシはメルボルンに移り住んで以来、毎週末にモカと一緒に朝の散歩をする習慣ができていた。
モカと一緒に生活を始めた当初、タカシは自分が本当にこの小さな相棒をきちんと世話できるのか不安を感じていが、モカとの日々が続くうちに、次第にその不安は消え去り、彼らの生活は自然と調和を見せるようになっていった。
この日は特に天気も良く、モカも元気いっぱいだったため、南メルボルン市場まで足を伸ばしてみることに。市場は地元の新鮮な野菜や果物、手作りの品々が集まり、活気にあふれている場所だ。
市場に着くと、タカシはモカと一緒にゆっくりと市場内を散策しながら、朝食用のパンを探していた。モカも市場の賑やかな雰囲気に興味津々で、あちこちの匂いを嗅ぎながら楽しんでる。タカシはモカの自由な振る舞いに微笑み、共に過ごす時間が日々のストレスを忘れさせてくれることを実感していた。
タカシは「アガテ・パティスリー(Agathé Pâtisserie)」の前で立ち止まると、ディスプレイに並べられたクロワッサンに目を奪われた。特に目を引いたのは、鮮やかな緑色をしたクロワッサン。「これは何だろう?」と思わずつぶやくと店員が丁寧に説明してくれた。
「こちらはパンダンリーフを使ったクロワッサンです。東南アジアの植物で、バニラのような香りが特徴です。中はこのように緑色なんですよ」
タカシはその説明に魅了され、「じゃあ、それを一つください」と頼んだ。店員がクロワッサンを包んで渡してくれると、あふれるようなバターとかすかなバニラの香りが漂ってきた。
モカもその香りに反応し、鼻をクンクンとさせてクロワッサンに興味津々だ。「これは特別な朝食になりそうだな」とタカシは微笑み、クロワッサンを手に市場をさらに散策し始めた。
市場の一角で、タカシは何かを探し回っている人々に気づいた。彼らはペットの飼い主たちで、焦りと不安が漂う様子が市場の賑わいと対照的だった。タカシはすぐにその異変に気づき、彼らに近づいて声をかけることにした。
「すみません、何かお困りですか?」タカシが優しく尋ねると、ある女性が涙目で顔を上げた。「私の犬が…突然いなくなってしまったんです。目を離したのはほんの一瞬だったのに…」
女性の言葉に驚いたタカシは、さらに詳しく話を聞くことにした。他の飼い主たちも集まってきて、次々と彼らの話をし始めた。聞けば、最近この南メルボルン市場の周辺で、ペットが次々と姿を消す事件が頻発しているという。
「最初は偶然だと思っていたんですが、もう5件以上も同じようなケースが続いているんです。私たちはみんな、ここでペットを散歩させていたんですが、いつの間にかいなくなってしまったんです」と、もう一人の飼い主が不安そうに語った。
タカシはその話を聞き、事態の深刻さを感じ取った。市場の活気に隠れて、不穏な出来事がこの場所で起きているのだ。彼はこれが単なる偶然ではなく、何か事件性を感じさせるものかもしれないと考え始めた。
「その犬がいなくなったのはどの辺りですか?何か特別なことに気づいたことはありますか?」タカシはさらに質問を重ね、できる限りの情報を集めようとした。
飼い主たちは、それぞれが失踪した場所や状況について説明した。共通していたのは、失踪した場所が市場周辺の特定のエリアであり、飼い主たちが目を離した一瞬の隙を突いてのことだった。
タカシは、これらの情報を元に市場周辺での出来事を整理し、事件の可能性を強く感じるようになった。
タカシはその後、モカの方を見た。モカはまるで何かを感じ取ったかのように、じっと市場の一角を見つめていた。タカシはその姿に、モカも何か異変を感じ取っているのではないか。
「これは単なるペットの失踪事件ではないかもしれない…」タカシはジャーナリストとして、この不穏な出来事に興味を持ち、調査を開始することを決意した。モカもその直感で、何か大きな異変が起きていると感じていた。
タカシは、失踪事件の真相を突き止めるために動き出した。市場の明るい表情の裏に隠された影を追いながら、モカと共にこの謎を解明しようと決意した。
つづく